2017-01-01から1年間の記事一覧

公園の猫 21

倉井との久しぶりのお茶も、自分のせいで妙な雰囲気になっているとS子も自覚していました。 普段よく喋る倉井も口数が少なくなり、S子も夫のことを話してしまうと何も喋る気がしなくなりました。 半ば逃げるようにS子は、(そろそろ家に帰らないと)と独り言の…

公園の猫 20

わざとらしくも思える驚き様と、笑顔で話し掛けてくる倉井に苛立ちを覚えながらも、S子は笑顔で答えました。そして倉井はいつものように自宅でお茶でも、とS子を誘いました。 久しぶりに倉井の家の居間に上がり、S子は周囲を見渡しました。倉井のハンドメイ…

公園の猫 19

それから夫は忙しいようで帰宅も遅く、疲れきっているように見えました。 名刺入れの事を聞くのも気が引けて、少し落ち着いてからにしようとS子は思っていました。 珍しく夫は休日も仕事のようで、その土曜日も朝早くから家を出ました。息子をクラブに送った…

公園の猫 18

風呂から出た夫は動揺したS子と違い、特に変わったところもなく手早く食事を済ませるとパソコンの前に戻り、再びキーボードを打つ乾いた音をたて始めました。 その場に一緒にいるのも不自然で、あまり無理しないようにと夫に声を掛け、S子は先に休むことにし…

公園の猫 17

皮の名刺入れとフクロウの焼き印。 何故夫がこれを持っているのか… たまたまなのか、それとも倉井と知り合いなのか、知り合いだとするとS子に言わなかったのは何故なのか? 可愛らしくデフォルメしたフクロウの顔は、考え込む自分を馬鹿にしているようにS子…

公園の猫 16

その日夫は忙しかったようで帰宅してパソコンの前に座ると、キーボードを打つ乾いた音をずっと響かせていました。 明日どうしても必要だから、とパソコン画面に集中していましたが、片付かないので先に風呂に入ってもらうようお願いし、食事は休憩の合間に温…

公園の猫 15

異常とも思えた夫の性欲が治まってくると、S子も公園に寄るのを徐々に少なくしました。 急に変えるのも不自然だし、倉井と全く会わなくなるというのも失礼な気がしましたが、これ以上親しくなるのはどうしても違和感がありました。通ううち、慣れてきたとこ…

公園の猫 14

初めて倉井の家に行ってから、土曜日になると倉井の家でお茶を飲むのが恒例となりました。アップルティーかストレートティーを飲み、ビスケットやクッキーを食べ世間話をしました。S子が近くにある評判の良い店で、洋菓子を買って持参する時もありました。 …

公園の猫 13

居間の扉が開くと、ゆっくり入ってきたのは倉井ではなく毛足の長い猫でした。 S子と目を合わせ、しばらく見つめ合っていましたが興味を失ったように、日の差した窓際のクッションの窪みにすっぽり収まって動かなくなりました。 後から静かに入ってきた倉井は…

公園の猫 12

土曜日になり、S子は倉井の家に招待されました。 斜面を削って区画整理した住宅街の、上りきったところが倉井の自宅でした。白とピンクを基調にした大きな家で、庭も広く短く整った触り心地の良さそうな芝生が目を引きました。 倉井について門から庭に入り弾…

公園の猫 11

あの女性に意見されてからも、S子は公園に寄って猫にエサを与えていました。 あれ以来会うと会釈するようになり、たまに向こうから近付いてきて話をすることもありました。 彼女は倉井と名乗りました。この近くで貸しスタジオとアクセサリー販売をしている、…

公園の猫 10

何の前触れもなく目の前に現れたあの女性は、S子に何か伝えようとしています。 いつも遠巻きで見ていた彼女が突然目の前に現れ、戸惑ったような、緊張を解すために作った笑顔がうかんでいましたが、その瞳の奥には強い意志を感じました。 一瞬戸惑ったものの…

公園の猫 9

それからほぼ毎回、公園に行くとあの女性が居ました。 いつも餌皿を二つ用意して、少し離れたところにしゃがんで猫たちが食べるのを眺めています。彼女は愛しそうに微笑んでいるように見えました。 S子は相変わらず、ドラッグストアで購入した安いスティック…

公園の猫 8

駐車場に戻ってきてからの状況を、なるべく忠実にS子の語った通り記してみようと思います。 駐車場に戻って周囲を見渡すとS子の欧州車以外に車は数えるほどしかなく、人影もありません。野良猫に餌をやっても誰かに見られることが無さそうでした。 買ってき…

公園の猫 7

(下の子が野球クラブに行くようになってから…なんだよね。それから毎週するようになって…) 店内には私達以外に初老の女性のグループが四人居て、話に夢中のようで時折四人が一斉に笑う声も聞こえました。おかげで私達も気にすることなく会話できました。 (旦…

公園の猫 6

左の隅にフクロウの焼き印のある、皮の名刺入れでした。 機械的均等さがなく、丈夫そうなハンドメイド作品のように思えました。 (旦那さんのなんだ。この名刺入れがどうかしたの?) 私が聞いたタイミングで、それぞれ注文したタルトが運ばれてきました。私達…

公園の猫 5

変な言い方にならないよう気をつけながら、大丈夫?と声を掛けると、 (うん、ごめんなさい。早くしないとね) と充血した目でS子は笑顔を作りました。 そこから二人で正規のパーツを組み込み接続をやり直し、無事に作業を終え、疲れと安堵からか二人とも少し…

公園の猫 4

翌日の朝、出勤したS子の鼻と頬に金たわしで擦ったような痛々しい傷痕がありました。本人いわく顔の擦り傷よりも、捻った足首の方が痛むとの事でした。 知り合いの家の玄関を出たところで転んだ、とS子は説明し私や噂話好きおばさん達が同情すると照れたよう…

公園の猫 3

S子とチームを組んで五年目になっていました。 ずっとチームを組んでいると、お互いの批判や行き違いも出てきそうなものですが、S子とはそんな事もありませんでした。 二人で休憩する時には、次の仕事の段取りを確認したり細かい分担を決め、時間が余ればス…

公園の猫 2

前回からの話の続きです. 以下、彼女のことをS子とします。 私と組んでいたベテランが定年退職し、職安に出した求人がきっかけで入社したのがS子でした。 当然、私と組むことになりました。 今まで組んでいたベテランは口が悪いところや何度も同じ話をしてう…

公園の猫

自宅でぼんやりと過ごしていた休日の昼間、何気なく見ていたテレビに洒落た欧州車が映っていました。 クラシックなデザインとカラーは、日本車にはない落ち着きとセンスを感じさせます。 ボーッとした頭の中にふと、一人の女性が浮かびました。一瞬何故彼女…

耳の治療 3

事務らしき女性が出入口のカギを開けたのは午後の往診時間ぴったりでした。 並んだ人々は粛々と受付を済ませ待合室で待機します。テレビのボリュームは押さえてあり、皆静かに見入っているかスマホや携帯をを弄っています。 私もその中の一人ですが、見知ら…

耳の治療 2

三十代半ばくらいの、受付の女性は私にそう告げるとパソコンに向き合い淡々と入力作業を続けていました。 これ以上意見は受け付けないという意志が、その態度からみてとれます。 腹立たしくもあったのですが、病院の予約システムはそうなっており、私のよう…

耳の治療

一週間ほど前から、右耳で声が反響するような違和感が続いていました。 左は何ともないのですが、右耳だけの症状だったのでそのうち治るのではと思っていましたが、耳の周囲が少し熱を帯びているようで、自然治癒を諦めて病院に行くことにしました。 会社近…

置き去りの仔猫

先週金曜日の夕方。 袖ヶ浦でお客様との打ち合わせを終え、木更津の顧客の所へ車で納品に向かっていました。 雨が降ると聞いていたのですが、まだ小雨がパラつく程度で、このまま納品もスムーズに終わりそうだと時折フロントガラスの雨粒を払いながら思って…

ハーバリウムなど

昨日高滝湖から帰って、友人宅でお茶をしつつ… 友人宅に来る楽しみの一つ、彼女のハンドメイド作品を見せてもらいました。 これはハーバリウム。植物を瓶詰めして専用液に浸した植物標本でインテリアとして長い間その美しさを楽しむことができるそうです。 …

秋分の日。雨上がりの高滝湖

今日は秋分の日です。 「秋分の日は昼と夜の長さが等しくなる」と、遠い昔授業で教わった記憶があります。 実際は昼の方がすこし長いようですが、私は近年、残暑からやっと解放される目安の日のように感じています。 しかし今年の夏は過ごしやすい日が多く、…

初めまして。

初めまして。 千葉県の房総半島に住む、ct711です。 面白かった、と見た方が思う記事にできたらと考えています。 よろしくお願いいたします(^^)