2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧

公園の猫 10

何の前触れもなく目の前に現れたあの女性は、S子に何か伝えようとしています。 いつも遠巻きで見ていた彼女が突然目の前に現れ、戸惑ったような、緊張を解すために作った笑顔がうかんでいましたが、その瞳の奥には強い意志を感じました。 一瞬戸惑ったものの…

公園の猫 9

それからほぼ毎回、公園に行くとあの女性が居ました。 いつも餌皿を二つ用意して、少し離れたところにしゃがんで猫たちが食べるのを眺めています。彼女は愛しそうに微笑んでいるように見えました。 S子は相変わらず、ドラッグストアで購入した安いスティック…

公園の猫 8

駐車場に戻ってきてからの状況を、なるべく忠実にS子の語った通り記してみようと思います。 駐車場に戻って周囲を見渡すとS子の欧州車以外に車は数えるほどしかなく、人影もありません。野良猫に餌をやっても誰かに見られることが無さそうでした。 買ってき…

公園の猫 7

(下の子が野球クラブに行くようになってから…なんだよね。それから毎週するようになって…) 店内には私達以外に初老の女性のグループが四人居て、話に夢中のようで時折四人が一斉に笑う声も聞こえました。おかげで私達も気にすることなく会話できました。 (旦…

公園の猫 6

左の隅にフクロウの焼き印のある、皮の名刺入れでした。 機械的均等さがなく、丈夫そうなハンドメイド作品のように思えました。 (旦那さんのなんだ。この名刺入れがどうかしたの?) 私が聞いたタイミングで、それぞれ注文したタルトが運ばれてきました。私達…

公園の猫 5

変な言い方にならないよう気をつけながら、大丈夫?と声を掛けると、 (うん、ごめんなさい。早くしないとね) と充血した目でS子は笑顔を作りました。 そこから二人で正規のパーツを組み込み接続をやり直し、無事に作業を終え、疲れと安堵からか二人とも少し…

公園の猫 4

翌日の朝、出勤したS子の鼻と頬に金たわしで擦ったような痛々しい傷痕がありました。本人いわく顔の擦り傷よりも、捻った足首の方が痛むとの事でした。 知り合いの家の玄関を出たところで転んだ、とS子は説明し私や噂話好きおばさん達が同情すると照れたよう…

公園の猫 3

S子とチームを組んで五年目になっていました。 ずっとチームを組んでいると、お互いの批判や行き違いも出てきそうなものですが、S子とはそんな事もありませんでした。 二人で休憩する時には、次の仕事の段取りを確認したり細かい分担を決め、時間が余ればス…

公園の猫 2

前回からの話の続きです. 以下、彼女のことをS子とします。 私と組んでいたベテランが定年退職し、職安に出した求人がきっかけで入社したのがS子でした。 当然、私と組むことになりました。 今まで組んでいたベテランは口が悪いところや何度も同じ話をしてう…

公園の猫

自宅でぼんやりと過ごしていた休日の昼間、何気なく見ていたテレビに洒落た欧州車が映っていました。 クラシックなデザインとカラーは、日本車にはない落ち着きとセンスを感じさせます。 ボーッとした頭の中にふと、一人の女性が浮かびました。一瞬何故彼女…

耳の治療 3

事務らしき女性が出入口のカギを開けたのは午後の往診時間ぴったりでした。 並んだ人々は粛々と受付を済ませ待合室で待機します。テレビのボリュームは押さえてあり、皆静かに見入っているかスマホや携帯をを弄っています。 私もその中の一人ですが、見知ら…