公園の猫 5
変な言い方にならないよう気をつけながら、大丈夫?と声を掛けると、
(うん、ごめんなさい。早くしないとね)
と充血した目でS子は笑顔を作りました。
そこから二人で正規のパーツを組み込み接続をやり直し、無事に作業を終え、疲れと安堵からか二人とも少し妙なテンションになっていたと思います。
その日は仕事を終えてから、S子としばらく話し込みました。
立ち話を一時間くらいした後、今まで見せたことのない無防備な笑顔でS子は礼を言うと、あの欧州車に乗り込み帰っていきました。
最後に、気にしなくていいよ、と声をかけたもののS子がこんなに混乱した姿を見るのは初めてで、私の方が気になっていました。
その日の夜、S子から明日の仕事帰りにタルトの美味しいお店があるから一緒に行こう、とラインで誘われました。
プライベートを一緒過ごすのは初めてでした。S子はまだ下の子が小学生ということもあり、仕事を終えすぐ帰宅していましたが、明日は近くに住む義両親に預けるとの事でした。
店は職場から遠くないところにありました。
古い建物でしたが手入れが行き届いた店内には清潔感があり、所々さりげなく飾ってあるハンドメイド雑貨に癒され、落ち着いた雰囲気がありました。
S子はビターチョコクリームと洋ナシのタルトを、私は迷ってイチゴとブルーのベリータルトを注文しました。
タルトが来るまでの間、また昨日のことをS子が詫びました。本当は怪我したところが大分痛むんじゃない?と聞くと、それは大丈夫だとS子が答えました。
顔の傷跡もまだ痛々しいですが、派手に転んだのにこの程度で済んで良かった、とS子は言いました。そしてスマホを弄ると私に一つの画像を見せてきました。それはどうやらS子が撮ったもののようでフクロウのマークがついた名刺入れ?のように見えました。
フクロウ?名刺入れ?と首を傾げた私に、
(うん、フクロウのキャラクターの名刺入れなの。旦那の物なんだけどね)
というS子の顔は、少し緊張しているように見えました。
ー続くー