公園の猫 8

駐車場に戻ってきてからの状況を、なるべく忠実にS子の語った通り記してみようと思います。

 

駐車場に戻って周囲を見渡すとS子の欧州車以外に車は数えるほどしかなく、人影もありません。野良猫に餌をやっても誰かに見られることが無さそうでした。

買ってきたおつまみの封を開けるとイカと酢の匂いが鼻をつきました。一切れ口に入れると唾液が滲み出てきます。

 S子はこちらを見上げる猫の鼻先にイカを投げました。素早い反応でエサを捉えると猫は一瞬で食べてしまいます。

その野良猫は真っ白な柄で、食べ終えるとまばたきすることなく青い目でS子の一挙手一投足を見つめていました。

S子はイカをまとめて投げてやりました。目の前に散らばったイカを見ると、今度は少し落ち着いて食べているように見えました。すると何処からか茶色い虎柄の猫も現れイカを横取りし始めました。白猫が威嚇したりもしますが、茶虎猫は知らん顔で食べ続けていました。

S子は買ってきた紅茶のペットボトルを飲みながら、首を振って餌を噛む野良猫の姿をぼんやりと眺めていました。

 その日からS子は、下の子をクラブに送ってから駐車場に寄り、時間になると迎えに行き帰宅する、というパターンを月に数回繰り返すようになっていました。その度旦那にはクラブの役員の人たちと打合せをしていた、等の適当な理由をつけて言っておきましたが、本当は毎週土日に体を求める自分を嫌がっているのでは、と旦那も気付いていたように思いました。

冬が終わり春を迎える頃でした。S子が駐車場寄るようになってから2ヶ月が過ぎ、野良猫たちはもうS子の車を見かけるとすぐに集まってきます。S子もおつまみではなく、猫専用の餌と自分用の紅茶を事前に購入するようになっていました。

その頃からほぼ毎回、同じように野良猫に餌をやる車を見かけるようになりました。離れて停車したその車の持ち主が、小柄な女性だろうとは気付いていましたが視力の悪いS子にはそれ以上分かりませんでした。

ある時、その小柄な女性が猫に餌をやり終えたのか、駐車場を出ようとS子の車の後ろを横切っていきました。運転席を見ると、知り合いに挨拶でもするかのように女性は微笑んで、S子に軽くお辞儀をしました。反射的にS子も頭を下げた時には彼女はもう通り過ぎていました。

S子は初めて間近でその女性を見ました。自分より一回りくらいは年上の、痩せた小柄な女性でした。

 

ー続くー