公園の猫 16

その日夫は忙しかったようで帰宅してパソコンの前に座ると、キーボードを打つ乾いた音をずっと響かせていました。

明日どうしても必要だから、とパソコン画面に集中していましたが、片付かないので先に風呂に入ってもらうようお願いし、食事は休憩の合間に温めれば食べられるよう並べておきました。

子供達はそれぞれ自分の部屋に入り、居間のパソコンを一時離れて夫は風呂に入りました。パソコンの画面には表とグラフが並んでS子の操作出来る範囲をはるかに越えていました。手伝いが出来ればと思ってみても何の役にも立たなそうでした。

椅子に掛けたスーツの上着をクローゼットに仕舞おうと手に取ると、普段何も入れない左のポケットが膨らんでいるのに気付きました。何気なく中を確認すると出てきたのは見たことのない名刺入れでした。確か今までは…使い込んだ黒い名刺入れを使っていましたが、買い換えたのかS子の手の中にあるのはやや厚手の皮のしっかりとした造りの名刺入れでした。

裁断や縫製に機械的な統一感がなく、ハンドメイド製のように思えるその名刺入れの端にある焼き印を見つけて、S子は一瞬息が詰まりました。

そこにあったのは倉井の家で見たあの焼き印、あのフクロウの焼き印がそこには押してありました。

 

ー続くー