公園の猫 19

それから夫は忙しいようで帰宅も遅く、疲れきっているように見えました。

名刺入れの事を聞くのも気が引けて、少し落ち着いてからにしようとS子は思っていました。

珍しく夫は休日も仕事のようで、その土曜日も朝早くから家を出ました。息子をクラブに送った帰り、S子は暇をもて余し気が向いたのであの公園に寄ってみることにしました。

しばらく公園に来ることもなかったのですが野良猫達はS子の車を覚えているのか、停車させてすぐ数匹が集まってきました。

まだ少し車内に残っていたエサを車から投げ与えると、エサは一瞬で誰のものになるか勝敗がつき、その様子を見てS子はケンカにならないよう、細かく砕いて1度に投げ入れるようにしました。

ぼんやりと野良猫達の旺盛な食べっぷりを眺めている時、見慣れた車が目の前を通り過ぎました。車はいつもの定位置に停車して、運転席のドアが開くと倉井が降りて来ました。

気付いているのか、それとも気付かないふりをしているのか、倉井はS子に背を向けたままエサを与え、夢中で食べる猫達に何やら話し掛けているようでした。

倉井がここに来るだろうと思ってはいました。

名刺入れのことを倉井に聞くのは…おかしいだろうか、もしかして倉井は何か私に隠しているんじゃないか、

目の前の倉井を見ながらS子は考えていました。そして自分に気付かず背を向けた倉井の姿に苛立ちを覚えました。

S子はゆっくり、倉井に近付きました。倉井はS子の姿に気付くと、驚いたと笑顔で答えましたが、わざとらしく見えるその仕草に、S子は苛立ちを圧し殺すのが精一杯でした。

 

ー続くー