公園の猫 6

左の隅にフクロウの焼き印のある、皮の名刺入れでした。

機械的均等さがなく、丈夫そうなハンドメイド作品のように思えました。

(旦那さんのなんだ。この名刺入れがどうかしたの?)

私が聞いたタイミングで、それぞれ注文したタルトが運ばれてきました。私達は無言でタルトと飲み物の位置を整え、会話を再開する準備をしました。

(ちょっと変な話かも知れないけど)

砂糖をゆっくり落として、混ぜた紅茶の渦を見つめながらS子が話始めました。私は相槌を打ち、話の続きを待ちました。

(ウチは上のお姉ちゃんと下の子が五つ年が離れてるのよね。二人目がなかなかできなくて、一人っ子でもいいかな、って諦めてたら下の子ができて)

 タルトを口に入れ、S子は眉を少し上下に動かしながら味わっています。私もイチゴを口に運びました。新鮮な酸味と僅かな甘みのあるやや硬めののイチゴでした。

(男の子なんだけどね、四年生になって野球を始めたの。地元では有名なクラブがあってね、そこに入部したいって言いだして。週末はいつもお昼から夕方まで練習してるのよ)

甘くしたコーヒーを口に含み、頷きながら話の続きを待ちました。いつもと違い話しにくそうにS子は喋っていました。

(上のお姉ちゃんも午後は部活に行くのよね。それで下の子を夕方迎えに行くまで家事してるとあっという間に夕方になってさ)

タルトを少し口に入れ、食べて、喋り、紅茶を飲むという動作をS子は繰り返します。私も話の合間で相槌を打ち、タルトを口に運びながら聞く役割に集中していました。

(一年くらい前からかな、子供たちの居ない午後になると毎回旦那がしたがるようになって…)

(したがるって?エッチしたがるって事?)

(そうなの)

私は思わず、へえー、と驚いたような感心したような声を出してしまいました。S子とは今までそういう話はしたことがなく、淡白な印象を持っていました。そして確か旦那はS子より八つくらい年上なので五十歳代のはずでした。

五十歳代になっても毎週求めてくる旦那。自分だったら嫌だろうなと思いつつ、S子の様子を窺うと、その表情から私と同じなんだと感じました。

 

ー続くー