公園の猫 9

それからほぼ毎回、公園に行くとあの女性が居ました。

いつも餌皿を二つ用意して、少し離れたところにしゃがんで猫たちが食べるのを眺めています。彼女は愛しそうに微笑んでいるように見えました。

 S子は相変わらず、ドラッグストアで購入した安いスティックや固形の餌を車から投げて、群がる猫をぼんやり眺めていました。

その土曜日も下の子を送った後、コンビニに寄り自分用の紅茶とチョコビスケットを購入して公園に向いました。駐車場に入るといつものようにあの女性がいて、やはり餌皿を二つ置いて少し離れたところで群がる猫を眺めていました。S子もいつもの場所に車を停車させました。

早速集まってきた猫たちに、ちょっと待ってね、とつぶやいて助手席の下に入れたエサを取り出しました。餌を包んだ袋を開けてS子は気が付きました。前回来た時餌がもう少ししかなく、買うのをすっかり忘れていました。

手に取るとささみのスティックは二本しかありません。砕いて投げ入れると瞬く間に猫たちは平らげました。今日はあの最初に出会った白猫と、その子供たちなのか子猫が三匹ついてきています。

こちらを見上げる白猫の青い瞳を見ながら、ごめんね今日はこれだけなの、とS子は声をかけました。

それから買ってきたチョコビスケットをつまみながらS子はスマホを弄って時間を潰しました。

しばらくして、おそらく三十分は過ぎたでしょうか、ふと外に視線をやるとまだ白猫がこちらを見ています。どこかに行っていて戻ってきただけなのかも知れませんが、その青い瞳を見ると、動かずにそこでずっとS子を見上げていたような気がしてきました。

S子は食べないだろうと思いつつ、チョコビスケットを投げ入れました。白猫はしばらく嗅いだ後、バリバリとビスケットを砕いて食べ始めました。そして食べ終えるとまた青い瞳でS子をじっと見つめています。

さらに二枚ビスケットを投げると、白猫の子供たちも戻ってきて一緒に首を振りながらビスケットをかみ砕いて食べ始めました。

しばらくその様子を眺めていると突然、小さく、短いノック音が助手席の窓から聞こえました。餌を夢中で食べる姿を見ていたS子は驚き背筋に寒気が走りました。

振り向くとそこにはあの女性が立っていて、眉を寄せて少し微笑んだ口元は、何か深刻な物事を伝えに来たように感じられました。

 

ー続くー